正文 三 - 12

「寒月君、君のを譫語(うわごと)にまで言った婦人の名は、時秘密であったようだが、もう話しても善かろう」と迷亭がからかいす。「御話しをしても、だけに関するなら差支(さしつか)えないんですが、先方の迷惑になるですから」「まだ駄目かなあ」「それに○○博士夫人に約束をしてしまったもんですから」「他言をしないと云う約束かね」「ええ」と寒月君は例のごとく羽織の紐(ひも)をひねくる。その紐は売品にあるまじき紫色である。「その紐の色は、ちと保調(てんぽうちょう)だな」と主人が寝ながら云う。主人は金田件などには無頓着である。「そうさ、底(とうてい)日露戦争時代のものではないな。陣笠(じんがさ)に立葵(たちあおい)の紋の付いたぶっ割(さ)き羽織でも着なくっちゃ納まりの付かない紐だ。織田信長が聟入(むこいり)をするとき頭の髪を茶筌(ちゃせん)に結(い)ったと云うがその節いたのは、たしかそんな紐だよ」と迷亭の文句はあいかわらず長い。「実際これは爺(じじい)が長州征伐の時にいたのです」と寒月君は真面目である。「もういい加減に博物館へでも献納してはどうだ。首縊……(内容加载失败!)

(ò﹏ò)

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