正文 四 - 2

近頃は勝手口の横を庭へ通り抜けて、築山(つきやま)の陰から向うを見渡して障子が立て切って物静かであるなと見極めがつくと、徐々(そろそろ)り込む。もし人声が賑(にぎや)かであるか、座敷から見透(みす)かさるる恐れがあると思えば池を東へ廻って雪隠(せついん)の横から知らぬ間(ま)に椽(えん)のへる。悪いをした覚(おぼえ)はないから何も隠れるも、恐れるもないのだが、そこが人間と云う無法者に逢っては不運と諦(あきら)めるより仕方がないので、もし世間が熊坂長範(くまさかちょうはん)ばかりになったらいかなる盛徳の君子もやはり吾輩のような態度にずるであろう。金田君は堂々たる実業であるから固(もと)より熊坂長範のように五尺三寸を振り廻す気遣(きづかい)はあるまいが、承(うけたまわ)る処によれば人を人と思わぬ病気があるそうである。人を人と思わないくらいなら猫を猫とも思うまい。して見れば猫たるものはいかなる盛徳の猫でも彼の邸内で決して油断はぬ訳(わけ)である。しかしその油断のぬところが吾輩にはちょっと面白いので、吾輩がかくまでに金田の門を入(しゅ……(内容加载失败!)

(ò﹏ò)

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