正文 七 - 3

横町を左へ折れると向うに高いとよ竹のようなものが屹立(きつりつ)して先から薄い煙を吐いている。これ即(すなわ)ち洗湯である。吾輩はそっと裏口から忍び込んだ。裏口から忍び込むのを卑怯(ひきょう)とか未練とか云うが、あれは表からでなくては訪問するがぬものが嫉妬(しっと)半分に囃(はや)し立てる繰(く)り言(ごと)である。昔から利口な人は裏口から不意を襲うにきまっている。紳士養方(ほう)の二巻一章の五ページにそうているそうだ。その次のページには裏口は紳士の遺書にして身徳をるの門なりとあるくらいだ。吾輩は二十世紀の猫だからこのくらいの教育はある。あんまり軽蔑(けいべつ)してはいけない。さて忍び込んで見ると、左の方に松を割って八寸くらいにしたのが山のように積んであって、その隣りには石炭が岡のように盛ってある。なぜ松薪(まつまき)が山のようで、石炭が岡のようかと聞く人があるかも知れないが、別に意味も何もない、ただちょっと山と岡を使い分けただけである。人間も米を食ったり、鳥を食ったり、肴(さかな)を食ったり、獣(けもの)を食ったりいろいろの悪(あく……(内容加载失败!)

(ò﹏ò)

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