正文 九 - 2

哲者の意見によって落雲館との喧嘩を思い留った主人はその後書斎に立て籠(こも)ってしきりに何か考えている。彼の忠告を容(い)れて静坐の裡(うち)に霊活なる精神を消極的に修養するつもりかも知れないが、元が気のさな人間の癖に、ああ陰気な懐手(ふところで)ばかりしていては碌(ろく)な結果のようはずがない。それより英書でも質に入れて芸者から喇叭節(らっぱぶし)でも習った方が遥(はる)かにましだとまでは気が付いたが、あんな偏屈(へんくつ)な男はとうてい猫の忠告などを聴く気遣(きづかい)はないから、まあ勝手にさせたらよかろうと五六日は近寄りもせずに暮した。

今日はあれからちょうど七日目(なぬかめ)である。禅などでは一七日(いちしちにち)を限って悟して見せるなどと凄(すさま)じい勢(いきおい)で結跏(けっか)する連中もあるだから、うちの主人もどうかなったろう、死ぬか生きるか何とか片付いたろうと、のそのそ椽側(えんがわ)から書斎の入口までて室内の動静を偵察(ていさつ)に及んだ。

書斎は南向きの六畳で、日りのいい所にきな机が据(す)えてある。ただきな机で……(内容加载失败!)

(ò﹏ò)

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